紙は "1 枚"、"2 枚"...、パーツは "1 パーツ"、"2 パーツ"...、じゃぁ、薬玉は "1 薬玉"、"2 薬玉"...?
なんだか「青巻き紙 赤巻き紙......」みたいで、思わず舌を噛みそうです。
物の数の後にくっついて、その物の数量を表す言葉を助数詞と言いますが (接尾語のひとつ) 、薬玉にも、舌を噛む危険を避けて数えられる助数詞があるようです。
1. つ
答え :
つ
ひとつ。ふたつ。みっつ。...。 (鼻で笑って、通り過ぎてください)
2. 個
答え :
個
1 個。2 個。3 個。...。 (指を鳴らしながら、通り過ぎてください)
3. りゅう
答え :
りゅう。流。琉。
「流」は旗など細長いものを数える語(1)だそうです。
- 雲州消息 (うんしゅうしょうそく : 藤原明衡 (ふじわらのあきひら、989〜1066 年) 著。成立年未詳。書状集。雲州往来、明衡往来とも。)
- 今朝自二或所一給二
薬玉一流一
読下し :
今朝 (コムテウ) 或 (ア) ル所 (トコロ)
自 (ヨ) リ 薬玉 (クスダマ) 一流 (イチリウ) ヲ
給 (タマ) ハル、
(参考文献 :『雲州往来 亨禄本 本文』三保忠夫, 三保サト子 篇. 和泉書院, 1997.)
- 西宮記 (さいぐうき、せいきゅうき、さいきゅうき : 源高明 (みなもとのたかあきら : 914 - 983 年) 著。成立年未詳。平安時代の有職故実書)
-
五日早旦、書司供菖蒲二瓶、居机二脚、立孫廂南四間生 (「生ナシ」) 近代不見、
絲所獻薬玉二流、又差内豎送諸寺、
(参考文献 :『改訂増補 故実叢書 西宮記』故実叢書編集部. 明治図書出版, 1993.)
- 実隆公記 (さねたかこうき : 三条西実隆 (さんじょうにし さねたか) 著 / 1474 - 1536 年 / 室町時代後期の公家 三条西実隆の日記)
-
永正九年五月
四日 丁丑 霽、藥玉一流於伯子息小男了、
(参考文献 :『実隆公記』高橋 隆三 編. 続群書類従完成会, 1963.)
4. すぢ
答え :
すぢ。すじ。筋。条。
古語辞典を引くと
-
-筋 -スジ (接尾) :
細長いものを数えるときに用いる語。...本、...条、の意を表す。「Dart一 ー」など。
(参考文献 :『全訳読解古語辞典 第三版』三省堂, 2007.)
と、あります。
オリガミオドットコム の前についているフレーズは、これに引っ掛けています。
- 簾中旧記 (れんちゅうきゅうき : 伊勢貞陸 (いせ さだみち、1463 - 1521 年) 著 / 1521 頃 ? / 室町時代の女房の故実を記した書)
-
おそらく、この書に書かれてある「すぢ」は薬玉の糸を数えたものだと思われます。
五月御くすたまのこと
五月五日の御くすたまは。御所さまへは 十二すぢづつのが参り候。
上らふたちより御下までは 九すぢにて候。御ひでうは 六すぢづつにて候。
内裏伏見殿こりやう殿より大なる御くす玉参り候。わきあけの上﨟たちへ 参らせ候て。そと御かけ候。てわきあけの程御かけ候。
(参考文献 :『群書類従 第二十三輯 武家部』塙保己一 編纂. 続群書類従完成会, 1930.)
- 河伯令嬢 (泉鏡花 著 (1873 - 1939 年) / 1927 年 / 昭和初期の小説)
-
以前、あのあたりの寺子屋で、武家も、町家も、
妙齢 (としごろ) の娘たちが、綺麗な縮緬 (ちりめん) の細工ものを、神前仏前へ奉献する
習慣 (ならわし) があって、裁縫の練習なり、それに手習 (てならい) のよく出来る祈願だったと言います。
四季の花はもとよりで、人形の着もの、守袋、巾着 (きんちゃく) もありましょう、そんなものを
一条 (ひとすじ) の房につないで、柱、天井から掛けるので。祝って、
千成 (せんなり)
百成 (ひゃくなり) と言いました。
絢爛 (けんらん) な薬玉 (くすだま) を幾条 (すじ) も
聯 (つら) ねたようです。城主たちの夫人、姫、奥女中などのには金銀珠玉を
鏤 (ちりば) めたのも少くありません。
女神の前にも、幾条か
聯 (つらな) って掛 (かか) っていた。
山の奥の幽なる中に、五色の蔦 (つた) を見る
思 (おもい) があります。
(参考文献 : 泉鏡花『鏡花全集 巻23 河伯令嬢』泉 鏡太郎. 岩波書店, 1942.)
5. 連
答え :
連
五色の糸、または組紐の束を指しているものだと思われます。
- 後宮名目 (こうきゅうめいもく: 京極為兼女 (きょうごくかめたねむすめ) 著 / 成立年
未詳 / 鎌倉末期頃に書かれたっぽい)
-
右者丹家之法
藥玉一連 十二 閏月の有る年 十三
(参考文献 :『後宮名目』藤原為兼女 撰. 書写年不明. 早稲田大学図書館 古典籍総合データベース)
6. まとめ
「流」や「すぢ」などが使われたというのは、薬玉に垂れた糸が長かったからだと想像します。糸の長さは、辞典や古典籍を参考にすると、だいたい六尺とあります。約 180 cm。本当に長いです。
残念なのは、今現在このような数え方が残っていないということです。
Mio さんの創作している折り紙の薬玉には、糸 (房) の無いものも多いし、
お祝い用のパカッと割れる薬玉についても、長い垂れ幕が出てくるとは言え、割れた後だし。
かと言って、「個」と数えるには、あまりにも味気なさすぎます。
で、勝手に考えてみました。
答え :
玉
薬玉、ひと玉。ふた玉。......。
おぉー。悪くないかも。 (自画自賛)
参考文献
- "二十三 往狀"『雲州往来 亨禄本 本文』三保忠夫, 三保サト子 篇. 和泉書院, 1997.
report : 2012年 7月 4日
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