うなぎがにょろんと逃げるように、アグアスカリエンテスの3ヶ月は、掴みどころなくにょろんと過ぎてしまった。
私の日常は相も変わらず、毎日紙を折り、創作をし、図面を描き、外に出るのはスーパーとホストさんちとの往復だけで、普通ならするであろう観光なんぞも一切スルーだった。
でも、海外にいると、ただ日常を過ごしているだけで、色んな面白いことを体験する。不思議なことにも遭遇する。天使たちにも出会う。
メキシコでは、ほんとうにたくさんの優しい天使たちに出会った。
その1. 空港で出会った天使
アメリカのフェニックス空港でおじさん天使に出会う
2018年1月31日。
アメリカのフェニックスからメキシコへはボラリスという飛行機で移動した。
受託手荷物を預けるカウンターの列がかなり入り組んでいたので、たまたま前に並んでいたおじさんに
「Is this Volaris? (これはボラリスですか?)」
と、尋ねてみた。
おじさんは真顔で「Yes」。
その後、順番を待ってる間、彼と少し話をすることになった。
(と、言っても私は英語ができないので、彼の話を聞くだけだったが。)
彼はお髭がステキなメキシコ人。お仕事でアメリカに来ているらしい。パスポートはアメリカのとメキシコのと2つあると見せてくれた。おそらく彼の子どもたちがアメリカへ移民したせいだと言っていたような気がする(←ちゃんと聞き取れていない)
話の途中、なぜか
「Do you believe in God? (君は神様を信じるか)」
と尋ねられた。とりあえず、
「Yes」
と答えた。
すると逆におじさんは驚いて
「DO YOU BELIEVE IN GOD??」
と、二度聞いてきた。
「Yes」。
まぁ、たしかに驚くだろうな。
たいてい日本人っちゅうのは仏教だしな。
(と言いつつも、神様を信じている日本人は多いと思う。なんしか日本には八百万(やおろず)の神様がいることだし)
彼は、ちょっとなまりのある英語で陽気にしゃべる。
荷物を預けた後も「助けが必要だったら、いつでも声を掛けてくれ」と言ってくれた。
グアダラハラ空港で再びおじさん天使に出会う
飛行機がメキシコのグアダラハラに着いたのは夜の 9:27 pm。
グアダラハラからホストさんちのアグアスカリエンテスまでは少し距離があって、バスで3時間ほど(約222km)かかる。次の日の朝 7:15 am のバスに乗ってホストさんちへ向かう予定だった。
10時間くらいの時間つぶしはたいして問題ないが、どのタイミングでどうやって飛行場からバスのりばへ行くか。は、ちょっと思考を巡らすところ(←調べてなかった)。
なんとかなる。と思っていたが、時間が時間。店も閉まっているところが多いし、人も周囲もなんとかなる雰囲気がない。おそらく早朝も同じだろう。
「さて。どうしようかなー。」と到着ロビーでうろうろしていたところ、あのおじさんにばったり。
おじさん :「What are you doing? (何をしているのか?)」
私:「I’m waiting a bus. (バスを待っている)」
おじさん :「A bus? Where will you go? (バス?どこへ行くのか?)」
私 :「あぐ…あぐ…(←街の名前を覚えていない)」
私はバスのチケットをおじさんに見せた。
おじさんは「おー、君はここからバスで Aguascalientes へ行くんだな。」と言い、「私も違う街へバスで行くんだ。今から、一緒にバス停まで行くかい?」と言ってくれた。
飛行場で時間を潰そうと思っていた私は、ちょっと悩んだ。
そのバス停、時間を潰せるような場所はあるんだろうか?
するとおじさんは見透かしたように「バス停はでかいよ。まるでこのロビーみたいだ。食べ物を売るコーナーもあるし、トイレもあるよ。たくさんの人も居て安全だよ。」と言う。
なるほど。
「でも、無理強いはしないよ。It’s up to you. (君次第だよ)」
と、おじさん。
「I will go with you. (一緒に行きます。)」
私はおじさんと一緒に、夜の間にバス停まで移動することにした。
飛行場からバス停まではシャトルバスがあるらしい。
でも残念ながら、いくつかの会社のバスはすでに最終便が出たあとだった。時間は夜10時を回っていた。
おじさんは諦めず、あちこちカウンターで聞いてまわって、最後のシャトルを見つけてくれた。
すごい、おじさん!!
乗車時間は約30分程度。
乗車賃は 65 MXN (ペソ)。
「タクシーは高いからね。バスが一番いいんだ。」
おじさんは親指を立てた。
空港で現地のお金を下ろしたものの、小銭じゃなかったので、おじさんが立て替えてくれた。
おじさん、何から何までありがとう。
バス出発時まで
バス停 (Terminal de Autobuses de Guadalajara) は本当にでかかった。
ターミナルも5,6社のバス会社ごとに広い敷地内にいくつか離れて点在していて、全体は飛行場並に広い。
夜も遅いというのに各待合室にはたくさんの人がいる。チケット売り場のカウンターがずらりと並び、いくつかのカフェやファストフードのお店もある。
たかがバスのりばだと、侮っていた。
おじさんはカウンターの人に再びあれこれと聞いてまわって私のバス会社を調べ、わざわざ乗り場まで付き添ってくれた。その乗り場は私一人だったら絶対探せないような、シャトルが着いたところから一番遠い離れた場所にあった。
おじさんのバスはシャトルが着いたターミナルなのに。
おじさんは天使だと思った。
おじさんのバスも早朝のバスだったので、それまで一緒に時間を潰すことにした。
彼は根っからの陽気な人で、ひとりでよく喋った。
半分も聞き取れなかったが、おじさんが楽しそうにしているので、私も楽しかった。
そうこうしているうちに、あっという間に夜が明けた。バスの出発時間はおじさんの方が先だったが、彼はなんとバスをひとつ遅らせ、私がアグアスカリエンテス行きのバスに乗るその瞬間まで、しっかりと見送ってくれた。
出発時、バスの窓の外でおじさんはずっと手を振ってくれていた。
おじさん、ありがとう。ありがとう。
アグアスカリエンテスに着くまでバスに揺られながら、なんかすんごいミラクルを体感した気分になった。
フェニックスのエアポートでおじさんに会ったこと、メキシコに着いて飛行機を降りてからおじさんに再会し、おじさんに連れられてバス停に来たこと、おじさんに案内されてとんでもなく広いバスターミナルでちゃんとバスに乗れたこと。
同じ飛行機に乗った人の中で、一体何人の人が私と同じバス乗り場へ行き、同じような早朝の時間帯にバスに乗っただろう。
全部、おじさんのおかげだった。そして、全部、奇跡だと思った。
おじさん、心からほんとうにありがとう。
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メキシコの天使の話はまだまだ続きます→